「外部評価結果とGRCの今後の課題」

            GRCセンター長 入舩徹男

 3月22、23両日に渡り開催されました第一回GRC研究成果発表・外部評価会に、ご多忙にもかかわらずご参加いただきました評価員はじめ関係者の皆様に、心よりお礼申し上げます。特に評価員の先生方には、発表会当日に様々な質問やコメントをいただくとともに、後日書面にて評価結果をいただきました。得られたご意見をもとに、今後のGRCの方向について教員の間で議論をすすめるとともに、この場をお借りして私見を述べさせていただきたいと思います。
 今回の評価においては、GRCの活動に対して概して非常に高い評価をいただきました。研究成果の面での評価とともに、教育面においても賞賛の声をいただいたことは、大学設置の研究センターとしては大変喜ばしいところです。これも数は少ないながら、それをカバーする熱意を持って研究・教育にあたっているGRC教員の努力の結果であるとともに、理学部・工学部をはじめとした全学的な支援のおかげであると、心から感謝いたします。
 研究面では、国際誌発表論文数が設立当初の2〜3倍に増加し、またその内容も高いインパクトのものが多くなっています。このようなGRC教員の質の高い研究活動は、愛媛大学がISI論文引用度指数「地球科学分野」において、2年連続我が国の大学でトップ(朝日新聞社発行「2004年(および2005年)大学ランキング」)に輝いている実績に対して、大きく貢献していることは疑いありません。
 教育面においては、本学の学生に対して3回生段階から研究室に受け入れ、積極的に指導をおこなっている点に高い評価をいただきました。いわゆる"偏差値"的には必ずしも高くない地方大学にあって、世界を相手に研究をすすめながら多数の学生・大学院生の教育をおこなうことは、容易なことではありません。昨今のCOE経費などを利用した国内や国外からの大学院生・研究員集めではなく、厳しい条件の中でも最大限の努力を払って自前の学生の教育に当たっている点を、非常に高く評価いただいたことを大変うれしく思っています。
 一方で、GRCのような小さな組織では、研究・教育をはじめとしたすべての面で必ずしも合格点をとらなくても、研究面など当初の目的にもう少し特化したほうがいいというご意見もいただきました。また、特に様々な特徴ある機器類の維持管理に割かれる教員の過重な労力をご心配いただき、技術職員が一人もいない点に対して改善すべきであるという強いご指摘がありました。独法化後大学全体として定員削減を余儀なくされている現状において、その実現はなかなか困難であります。しかし、この点に関しては今後も粘り強く要望をだしていくとともに、一方で外部資金の獲得による非常勤職員の確保、GRC学内研究員に対する支援の要請、関連企業や地元企業との連携強化などにより対応したいと考えています。
 研究面に関しては、GRC内部における共同研究の活性化についてご意見をいただきました。確かにこれまでの5年間は各グループや個人が突っ走ってきた状況であり、セミナー等を通じて研究交流はされてきましたが、内部での共同研究を発展させる余裕がなかったように思われます。私としては、今後も基本的にはそれぞれが走ってもらっていいと思いますが、一方でGRCの小さいサイズを生かして、他グループと日常的に研究面での議論ができる場をつくりたいと考えています。その中で自然発生的にGRCならではの、新しい研究の芽が生まれればと思います。そのためにも、GRCの体制として従来の部門制から、よりゆるやかなグループ制への移行を検討したいと考えています。
 関連して、GRCが目標として掲げている3つの"i"言葉のうち、学際性(interdisciplinary)に関して、異なる2つのご意見をいただきました。一方は必ずしも学際的研究は必要ないというご意見、もう一方は学際的研究が不十分であるとするご意見でした。これは、「学際的研究」に対するイメージが、評価員の中でそれぞれ異なることによるせいかとも思います。前者は学際的研究を応用的研究というニュアンスで捉えられ、また後者はGRC内部での共同研究という捉え方をされたようです。この点は私の説明不足に起因するものかと思いますので、多少説明を加えさせていただきたいと思います。
 私が意図している学際的研究とは、必ずしも応用研究を指すものではありません。またGRC内部に閉じたものではなく、学内の様々な分野の教員との交流の中で期待される、地球深部科学および関連分野の新しい研究を指しています。本学のような比較的小規模の大学では、異分野の教員との接触機会が多くなり、これを新しい研究につなげられる条件があります。既存の地球科学の枠にとらわれず、新しい研究手法や分野を切り開くには大変恵まれた環境であり、これを生かさない手はないと考えて掲げているのがこの目標です。この点まだまだその達成は不十分でありますが、この目標は少し長期的な課題として考えていただければと思っています。
 ちなみに、本学のような地方大学で特徴ある先端的研究を展開するには、"スモールスケール"をデメリットからメリットに転化させる発想の転換が必要であると考えます。そのためにあえて掲げているGRCの目標が、上記の「学際性」に加えて「国際性(international)」と「革新性(innovative)」の3つの言葉です。居住環境や自然に恵まれた地方においては、外国から優秀な研究者を呼び寄せて国際的共同研究を展開する条件があり、また余分な雑音の少ない田舎においてこそ、流行に流されない独創的研究を発展させることができると思います。GRCにおける超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンドの開発をはじめとした研究成果や、活発な国際的共同研究や国際レクチャー・セミナー等の活動において、後者2つの面ではかなり高い評価をいただいたものと理解しています。
 なお、GRCの認知度はまだ必ずしも高くないというご指摘をいただき、それを上げる一つの方策として、客員研究員の拡張を図ることをご提案いただきました。私としても、設立以来この点は一つの重要な戦略として位置づけており、今後もより多くの方を研究員として委嘱したいと考えています。ちなみにご指摘のあった点、説明不足もありましたが、研究員は装置の利用者に限っているわけではありません。装置を利用するには研究員になっていただく規定になっていますが、セミナーで話していただいたり、必ずしもGRCに来なくても共同研究をすすめている方も研究員になっていただいております。また、GRCの認知度を上げる一つの試みとして、今年の地球惑星科学連合大会ではGRCの展示ブースを出すことを企画しております。
 今後の5年間は、組織としてのGRCにとって、非常に重要な期間になると考えています。設立以来5年を経て教員や研究員などのスタッフもほぼ一定の数に達し、また建物の建設や装置の導入も一段落した現在、これからがGRCの真価と存在意義が問われるものと認識しています。今回の外部評価を機に、特徴ある先端的研究を展開する本学を代表する研究センターの1つとして、スタッフが研究により専念できる環境を整備したいと考えています。そのために重要なのは、評価員からもご指摘いただいたとおり、教員の数をいたずらに増やすより、研究支援スタッフの質的・量的充実と学内における役割分担の一層の明確化であると考えています。
 また、大学設置の研究センターである以上、教育に対しての貢献も重要であると考えます。しかしその貢献は、GRCの場合その第一の目的である先端的研究を通じて実現すべきものだと思います。その一つの重要な課題は、昨年から始まった本学のスーパーサイエンス特別コース(SSC)学生を核とした、また国外も含めた大学院生・若手研究員の受け入れなどを通じた、研究者および高度な技術者の養成です。また一方で、高校生などを対象とした講演やマスコミ等への情報発信により、GRCなど本学の3つの代表的研究センターを広く認知させる活動も重要であると思います。
 以上のように、GRCでは今後も3つの"i"言葉を念頭においた研究活動の展開を第一の課題とし、それを通じた教育や情報発信をおこなっていきたいと考えています。今後とも学内外の関係者の一層のご理解・ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


      
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