超高分解能の地震波トモグラフィー


 兵庫県南部地震、鳥取県西部地震、新潟中越地震、そして今年の福岡県西方沖地震など、地殻上部で発生する プレート内地震は大きな被害をもたらします。地殻地震の発生メカニズム解明における一番強力な情報は、 もちろん地殻の構造を詳細に知ることです。
今回紹介するのは、従来の地震波トモグラフィーに比べ10倍の精度で3次元地震波速度構造を求めることが 出来る手法です。従来のトモグラフィーは図1上のように、震源から放射するエネルギーのうち、直達で観測点に 到達する波のみを用いるものでした。この方法の分解能は観測点の間隔に依存し、日本のように密に観測点が設置 されている地域でも約10 km程度です。また、地震が発生している領域よりも深い場所の解像度は極端に悪くなる 傾向があります。これを改善するには2つの方法が考えられます。 1つは、より多くの観測点を配置することですが、 これには多大なコストが必要であまり現実的ではありません。もう1つが今回開発した手法によるものです。これは、 図1下のように、直達波以外に地表や地下の反射面(Moho面など)で反射する後続波も利用するものです。図1を比較して 分かるように、1つの地震・1点の観測点の組み合わせでも、 多様な波を用いることで多くの地震波線を利用できます。
 



 
図1:従来のトモグラフィー法(上)と今回開発した方
法(下)における,地震と観測点,地震波線の模式図.






 この新しい手法をCaliforniaのLanders地震の震源域に応用した結果を紹介します。図2のよう に用いた観測点は2点です。 図2上は、従来のトモグラフィーで用いる直達波の波線分布を示したものです。地震の 発生している深さが10 kmあたりまでで、 波線がカバーできる領域もその辺りまでに限られているのが分かります。 これに対し、今回の新しい手法で用いる地震波線(直達波+反射波)の分布が 図2下です。Moho面までの地殻の全領域 に渡って均一に地震波線が通っていることが分かります。
 



図2:(上) 直達波の波線分布.(下) 直達波
+反射波の波線分布.黒三角は観測点.縦
軸は深さ(km).

    




  図3は、図2の波線を用いて行ったトモグラフィーの比較です。直達波のみを用いて行ったものでは深さ15 km 程度までしか求まっていませんが、新しい手法ではMoho面までの地殻全体のイメージを得ることができました。地殻 地震はほとんどが上部地殻で発生するのですが、下部地殻・その下の上部マントルからの流体の上昇との因果関係 が指摘されており、地殻全体のイメージングは非常に有益な情報です。また、図3から明らかなように、観測点の 間隔の1/6-1/8のスケールの解像度が得られており、従来の観測点配置においても、 地殻地震域の詳細な地震波速度構造が得られることが分かりました。




図3.(上) 直達波のみを用いたトモグラフィー.(下) 反射波を用いたトモグラフィー.縦軸は深さ(km).
    





  今後、この手法をいろいろな地域に応用して、大被害をもたらす地殻地震のメカニズムの解明を目指していきます(趙 大鵬,山田 朗)。





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