超高圧発生技術の開発 〜地球中心を目指す旅〜

        
 地球科学における高圧実験の役割のひとつに、地上にある実験室内で地球内部を再現することがあげられます。特に地球深部科学に関しては、人間が岩石などの試料を直接採集しに行くことは不可能ですから、その役割は重要です。月の石を取りに行くにはロケットが必要ですが、より高い圧力の発生を目指す技術開発は、地球内部のより深い部分に到達するための"地底ロケット"開発のようなものだと言えます。
 GRCで行われてきた川井式マルチアンビル装置と焼結ダイヤモンドアンビルを用いた高圧発生技術の開発は、以前に発行されたニュースレターでも紹介されてきました。例えば2001年9月に発行されたGRCニュースレターの第1号には、GRCが所有するマルチアンビル装置、ORANGE-1000の紹介記事中に、焼結ダイヤモンド製の2段目アンビルを用いることにより、40万気圧、1500℃程度までの高温高圧実験が可能であると記されています。さらにその後2003年9月に発行された第7号では、室温55万気圧の発生を達成したと報告されました。その後筆者も2005年4月GRCに所属して以来これまで、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8において、焼結ダイヤを用いた高圧発生技術の開発に取り組んできました。今回はその技術開発の最新の結果を報告します。
 マルチアンビル装置を用いて実験をする際、特に圧力の発生という観点においては、大型油圧プレスの荷重を試料中心部へ最終的に伝える圧力媒体と、圧力媒体中に発生する超高圧を封じ込めるためのガスケットが、非常に重大な役割を担います。この圧力媒体とガスケットの大きさや素材を吟味し、最適化することによって圧力発生の効率を上げ、最高到達圧力を延ばすことができました。そして最近の実験では、これまで川井式マルチアンビル装置で発生されていた圧力の世界記録を更新し、70万気圧の発生に成功しました(図1)。地球内部では、上部−下部マントル境界が約23万気圧、核−マントル境界がおよそ135万気圧ですから、この圧力は下部マントルのほぼ中心部に相当します。現在まだ室温での圧力発生しか行っていませんが、今後はより高い圧力の発生を目指すと同時に高温の発生にも取り組み、下部マントル中深部の温度圧力条件を安定して再現することを目指します。さらに深く、核−マントル境界への到達を夢見て(丹下慶範)。

             
     図1:70万気圧までの圧力発生曲線。右に示したのは、これまで
    GRCニュースレターで報告されたその時点での圧力発生限界と、
    Ito et al. (2005)による本報告以前の、マルチアンビル装置を
    用いた圧力発生における最高記録。
 

← 最近の研究一覧へ戻る