高温高圧下における含水マグマの構造解析

        
 最近の地震学的観測による研究で、地球の浅い部分だけでなく深い部分、例えば地下410km付近にもマグマ(珪酸塩液体)が存在していると示唆され、物理化学的特性の解明は地球内部科学の分野においても大きな関心事の一つといえます。
 高圧条件下において鉱物が融解するには何らかの融点降下の役目を果たす物質が必要で、最も有力な候補として水が挙げられます。水の働きによって鉱物の融点が下げられれば、一般的に考えられている地球内部の温度でもマグマの発生は十分可能といえます。つまり、地球内部に存在するマグマには水が含まれているということになります。このような高圧力下で生成された含水マグマは、無水条件のものと全く異なる物理化学的特性を持ち、例えば含水条件下で生成されるマグマは低圧の領域ではSiO2成分(酸性成分)に富むことが知られていましたが、最近の研究では高圧の領域では逆にMgOやCaOといった塩基性成分を急激に溶かしこみ始めることが明らかになりました[1]。物質の物理化学的な特性は固体、液体関係なくその構造によって支配され、その構造を読み解くことは物質をより理解する上で必要不可欠といえます。ところが、このような高温高圧状態で生成された含水マグマの構造に関する直接観察実験は、実験技術的な困難さからこれまで行われませんでした。
 今回はMgO-SiO2-H2O系の試料で、Mg(OH)2、SiO2粉末を目的の量比で調合し、含水の試料を準備しました。実験は茨城県のつくば市にある高エネル ギー加速器研究機構の放射光施設PF-AR及び兵庫県の大型放射光施設SPring-8で行いました。高圧マグマの構造解析には、両施設で得られる強力な放射光X線を用いてX線回折法を採用しました。含水マグマの高温高圧X線回折を行うにあたり、この実験では新たに単結晶ダイヤモンドと白金の複合カプセルを試料の容器として使用しました。この実験では新たに単結晶ダイヤモンドと白金の複合カプセルを試料の容器として使用しました。この封入法の開発により、含水マグマを完全に容器中に閉じ込めつつ試料からの高強度の回折線を得ることが可能となり、より正確な構造データを得ることに成功しました[2]。

図1:Mg2SiO4-MgSiO3-H2O18.3重量%(Mg/Si=1.5)液体のX線干
渉関数。図中の矢印は第一ピークの位置を示す。

 得られた含水マグマのX線回折データを解析することにより、それらの構造に関する情報を持ったX線干渉関数を得ることができます(図1)。この関数で主に注目されるのは図中の矢印で示した第一ピークです。このような主ピーク(この場合4.5 A-1付近に対応)より低Q側に現れるピークは、中距離構造に規則性を持った液体であることを暗に示しています。ここで、マグマのような珪酸塩液体における中距離構造というのは、主に…-Si-O-Si-…のようなSiO4四面体どうしがその酸素原子を複数個共有し連結することで構成される網目状構造に対応しています。私たちはこの第一ピーク位置の圧力による変化に注目し、水の特性変化に由来すると考えられる不連続な中距離構造の変化をはじめて実験的に見い出しました[2]。

図2:Mg2SiO4-MgSiO3-H2O18.3重量%(Mg/Si=1.5)液体の動径
分布関数。図中の矢印はそれぞれの原子対のピーク位置を表す。

 更に、図1の干渉関数をフーリエ変換することによって実空間における局所構造に関する情報を得ることができます(図2)。動径分布関数のピー ク位置の解析結果によると、珪酸塩液体の基本構造単位であるSiO4四面体中のSi-O結合距離は圧力と共に徐々に伸びるという結果になりました。特に約15 GPaのデータではSi-O原子対由来のピークとMg-O由来のピークが重なり合うという結果になり、局所構造においても大きな構造変化が生じていることがわかります。このSi-O結合距離のように、本来圧縮に対して収縮するべきものが長距離化するという現象は、その構造単位の配位数が増加していることを示しています。つまり、低圧において安定な4配位状態からより高い6配位構造へと徐々に変化していることを意味しています。このような液体の遷移的な構造変化は、構造に揺らぎが許される液体特有のものといえます。
 本研究では、これまでの実験技術的問題を解決し、はじめて高圧含水マグマの構造データを高温高圧で収集することに成功しました。本研究で構築された手法、得られたデータは今後、更なる高圧マグマの構造、物性に関する研究に生かされるものと期待されます。(山田明寛)

参考文献
[1] Inoue, T. (1994) Effect of water on the melting phases relation and melt  composition in the system Mg2SiO4-MgSiO3-H2O up to 15 GPa, Phys. Earth Planet. Inter. 85, 237-267.
[2] Yamada, A, T. Inoue, S. Urakawa, K. Funakoshi, N. Funamori, T. Kikegawa, H. Ohfuji and T. Irifune (2007) In situ X-ray experiment on the structure of hydours Mg-silicate melt under high pressure and high temperature, Geophys. Res. Lett., 34, L10303.


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