地球深部、核・マントル境界での 反応速度


 地球内部の運動を考えるときには、 それを構成している物質の密度は非常に重要な要因になります。もし、密度が高い物質なら、 地球深部へ沈み込みそのままそこで滞留する可能性がありますし、もし密度が低い物質が地球深部に あったならそれは上昇してくることもあるでしょう。前者は沈み込むスラブ、後者は上昇するマント ルプルームと考えられています。ここで、物質の密度を決定する要素は、温度、圧力、そして化学組 成が考えられます。このうち、程度にもよりますが、化学組成が最も敏感に密度変化に影響をあたえます。
 地球深部にある下部マントルには、おもに、(Mg,Fe)SiO3からなる珪酸塩ペロブスカイトと (Mg,Fe)Oからなるマグネシオヴスタイトで構成されていると考えられます。また、 地球のマントル最下部にある核・マントル境界では鉄に富んだ層として存在していると考えられます。 そこで、沈み込んでいくスラブのようにマントル表層にあった物質がマントル最下部まで沈み込むと そこで鉄と反応を起こして、マグネシウムと鉄のあいだでの置換反応が起こります。これは、 沈み込んでいくスラブ中の主要構成物質であるハルツバージャイトは比較的鉄成分に乏しいと考えられているからです。 この反応は沈み込んだスラブの密度に重大な影響を与えます。原子としての鉄自体が他にくらべて非常に重たいので、 鉄を沈み込んだスラブが鉄を多く含むようになると、それは重くなるのです。では沈み込んだスラブがどのくらい の早さでどれくらい重くなっていくのでしょうか? あるいは、本当に重くなっていくのでしょうか?
 この疑問の回答を得るために、GRCに設置されている高圧発生装置を用いて元素の移動速度を調べる 拡散実験が行われました。実験に用いた試料は、(Fe,Mg)Oの化学組成をもつマグネシオヴスタイトです。 およそ、10万気圧から35万気圧の圧力、1300℃から1700℃の温度で実験が行われました。 実験終了後試料を回収し、その試料のEPMAを用いた化学組成の分析が行われました。ある温度・ 圧力でどれくらいの早さで、マグネシウムと鉄の交換反応がマグネシオヴスタイト中で進むのを調べたのです(図1)。
      (図1)
 得られた分析結果を核・マントル境界の温度・圧力条件まで外挿します。 その結果、反応が10m進むのにおよそ100万年かかります。沈み込んだスラブはおよそ100kmの厚さがあると 考えられますから、この距離を拡散するのには地球の年齢よりも長い時間が必要になります。一方、沈み込んだス ラブは核から熱をもらいうけて高温になっていきます。物質は高温になると熱膨張をおこし密度が低くなっていき ます。この熱をもらい受ける早さ(熱拡散)は、今回実験で求めた化学的な反応速度よりも数桁以上早いために、 比較的はやく暖まるようになります。以上の結果をまとめますと、沈み込んだスラブは化学反応により組成を変え ることはことはなく、ただ単に高温になるということです(図2)。
        (図2)
 以上の結果がマントル対流にどのような 影響を与えるのかを考えてみます。沈み込んだスラブは、核・マントル境界に 滞留します。ここで、核から の熱の寄与によって密度低下をおこし、この密度 低下が十分な浮力を与えるならば、再びマントル 上昇流となって地球浅部に 帰ってくるのかもしれません。鉄の拡散により密度が増加することがないことが 重要なのです。この説をより確実なものに検証するためには、より複雑な系での 詳細な実験が必要と考えられます。

参考文献
○Yamazaki and Irifune, Mg-Fe interdiffusion in magnesiowustite up to 35 GPa and its implica- tion for the reaction at the core-mantle boundary, 投稿中
 
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