〜超高圧下での弾性波速度測定〜


『今、地球内部がどうなっているか?』これは地球科学の最も大きな問題の一つです。この疑問を解き明かす強力な観測結果が地球内部の地震波速度分布です。近年の観測技術の発展や観測点の増加に伴いマントル内の地震波速度不連続面や三次元不均一など詳細な地球内部の観測データが得られつつあります。こうした観測データはプルームテクトニクスを生み出す契機となり、地球内部のダイナミクスを考える上で非常に有用なデータとなっています。しかしながら、こうした地震波の観測データは地球内部の地震波速度の様子を教えてくれるだけで、例えば、地震波速度がマントル内で最も大きく変化する深さ660km(660km地震波速度不連続面)では、鉱物の高圧相転移が起こっているのか?それとも、マントルの化学組成が変化しているのか?ということには答えてくれません。『今、地球内部がどうなっているか?』この疑問に答えるには地震学的データのほかに高圧実験によってマントル鉱物の弾性波速度を測定し実際の地震波のデータと比較する必要があります。こうした地震波速度データを解釈するのに必要な鉱物の弾性データは非常に多く、鉱物の化学組成や相組み合わせ、温度、圧力などの条件それぞれにデータが必要になります。  
  図1 Ringwooditeの弾性波速度の圧力依存性
 我々はマントル遷移層下部に最も多く存在しているとされているカンラン石の高圧相のリングウッダイト(Mg,Fe)2SiO4の弾性波速度の測定を高圧下でおこないました。 この研究では特にマントルに含まれる鉄が鉱物の弾性定数にどのような影響をするか調べました。実験はGRC設置のマルチアンビル型高圧発生装置で大型のリングウッダイ トを合成・焼結し、高圧下の弾性波速度の測定はニューヨーク州立大学設置の高圧発生装置と超音波測定システムをつかって実験を行いました。
 実験はMg2SiO4 と(Mg0.8,Fe0.2)2SiO4の組成で、マントル遷移層最上部に相当する圧力まで行うことができました。実験の結果、鉄を含む場合リングウッダイトの弾性波速度は著しく遅くなることがわかり(図1)、この結果を用い鉱物の弾性的な性質を示す弾性定数を計算すると、ものの縮みにくさを示しめす体積弾性率は鉄の量にはかかわら ずほとんど変化せず、ずれにくさを示す剛性率は減少することがわかりました。こうした、鉱物に関する基礎データは、単独では何も語ってくれませんが、多くのデータを総合的に比較することで地球内部の化学組成や温度の分布を推定することが可能になります。
 図2 GRCで得られた14GPa における超音波波形
 最近、GRCにおいても高圧下での超音波速度測定が行えるようにシステムの立ち上げを行っており、上記の実験とほぼ同じ条件であるマントル遷移層に相当する圧力条件でデータを取ることに成功しています(図2)。
<  今後、より実際の地球内部の条件に近い高温高圧下での弾性波速度の測定を行うことで地球内部全体の温度、化学組成を高精度で明らかにできるかもしれません。(学振DC3肥後祐司)



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