地震波形を読み解く:地球深部の不連続面と地球ダイナミクス


 当センターの趙教授らのトモグラフィーによって、地球マントルの対流の様子が分かってきました。太平洋中部やアフリカで外核‐マントル境界(CMB)から地表付近まで湧き上がる上昇流、日本周辺などの沈み込み帯からマントル深部・CMBまで沈み込んでいく下降流、という大局的な対流です。層中の対流の様相を決定する役割を果たすのが、層を分ける面、境界面の構造です。マントル中には、物質の相転移に起因する遷移層不連続面、マントル底部のCMB、という顕著な境界面があります。それらの構造を知るために、唯一の観測手段である地震波形の解析を行っています。
 マントルの410km、660 km不連続面はかんらん石が相転移する境界であると考えられています。この不連続面の凹凸は温度に依存することが高温高圧実験から分かっており、凹凸の見積もりはマントルの温度構造や熱力学的条件の考察に役立ちます。我々は複雑なテクトニクスをもつトンガ地域下に着目しています。冷たいスラブ周辺ではマントル遷移層が厚くなり、さらにスラブの直上の410 km不連続面は平均より深く見積もられており(図1)、何か熱いものが存在していると考えられます。最近の高温高圧実験では不連続面の凸凹は温度だけでなく水や二酸化炭素の量にも依存することがわかっており,温度以外の影響も同時に考 えることがこれからの課題です。

図1:トンガ地域における410 km,660 km不連続面の深さとマントル遷移層の
厚さ変化

 CMBは液体鉄の外核と固体のマントルとの境界 であり、その直上は非常に不均質な構造をしています。大局的(1000km以上の長波長構造)な不均質はトモグラフィーによって明らかにされています。また、局所的(100km程度の短波長)な不均質構造も見つかっています。局所的な不均質は対流の底であるCMBの構造の複雑さを表していると考えられています。局所的な構造を調べるには、CMB反射波を解析するのが適しています。図2は,フィリピン海下のCMB直上での短波長不均質構造の検出を示しています。数100km程度のサイズの低速度異常がCMB直上に存在し、CMBで反射する地震波に後続波を生じさせていると推定しました。 私たちはこのような波形解析によって局所的な異常構造を検出し、その起源と地球ダイナミクスに与える影響について考察しています。

図2:研究領域と地震波線.左図の@からCでの反射波が右図.Cでの
反射波だけに,顕著な後続波(矢印)が見られる.

 上記の例からも明らかな通り、地震波形の解析による境界面の構造推定はある一つの領域を詳しく調べるのに適しています。反面,地震の発生場所と地震観測点の配置による制限から、全地球的な推定が難しいのが現状です。今後の発展方向として、局所的な異常とグローバルなダイナミクスとを結びつけるモデルの構築を目指していきます。(山田朗、今任嘉幸、出原光暉)



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