透過型電子顕微鏡によるMgSiO3-ペロブスカイトの観察


 地球深部にある下部マントルは,主に,ケイ酸塩ペロブスカイト((Mg, Fe)SiO3)とマグネシオウスタイト((Mg, Fe)O)で構成されていると考えられています.そこで,ケイ酸塩ペロブスカイトの微細構造を観察することにより,下部マントルの弾性・塑性的性質や化学組成に関する情報を得ることができると考えられます.
 ところが,ケイ酸塩ペロブスカイト―特にMgSiO3端成分のペロブスカイト(Mg-pv)―は,電子線に非常に弱いことが一般に知られています.急速なアモルファス化のため,これまで,透過型電子顕微鏡(TEM)による観察が困難であるとされてきました.
 私たちは九州大学超高圧電子顕微鏡室との共同研究を進め,Mg-pvのTEM観察を可能にするために試行錯誤を重ねました.その結果,試料を液体窒素で冷却しながら観察することで,アモルファス化を防ぐことに成功しました.転位や積層欠陥などの微細構造を観察するような倍率(数万倍)の観察では,アモルファス化が全くおこりません(図1).電子線回折パターンもきれいに撮影できます(図2).高分解能観察(数十万倍)では,数秒でアモルファス化がおこりますが,写真を撮影することは可能です(図3).

        

 このように,Mg-pvのTEM観察が可能になったことにより,転位密度の測定やバーガースベクトルの決定ができ,下部マントルのレオロジーに関する議論がより深まると期待されます.  また,ケイ酸塩ペロブスカイトは,隕石中に存在痕が観察されることがあります((Mg, Fe)SiO3組成のガラスが存在).試料を冷却しながら観察すれば,もしかしたらアモルファス化していないケイ酸塩ペロブスカイトがみつかるかもしれません!ケイ酸塩ペロブスカイトの名付け親になれるかも?!
 この研究の一部は,文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトの支援を受けて実施されました.(研究機関研究員 阪本志津枝)

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