GRCの入舩徹男センター長・新名亨ラボマネージャーと、バイロイト大学地球科学研究所(ドイツ) のCatherine A. McCammon(キャサリン・マッキャモン)研究員・宮島延吉研究員らのグループは、大型放射光実験施設SPring-8の高圧地球科学ビームラインBL04B1の超高圧装置や、 GRCとBGIの各種分析装置を駆使し、地球マントルの仮想的岩石「パイロライト」の相変化や密度変化を、地球の深さ1200kmに至る高圧高温下で精密に決定することに 成功しました。本研究の成果は、12月3日付けの米科学誌「Science」online版に掲載されています。

      
       図 地球深部1200kmまでのパイロライトの相変化と密度変化

 地球内部の深さ660kmと2890kmの地震学的不連続面で囲まれた領域は、「下部マントル」と称され、地球全体の体積の約6割を占めます。 下部マントルの化学組成の解明は、地球全体の原料やその形成過程を知る上で重要ですが、この領域に対応する高温高圧下での精密な実験は極めて困難でした。
 愛媛大学の研究グループでは、ダイヤモンドを焼き固めた超硬材料(焼結ダイヤモンド)を用いて、最近圧力約50万気圧、温度約2100℃まで (下部マントルの半ば近くに相当)の精密実験技術を開発しました。この技術を用いて、下部マントルの候補物質である「パイロライト」の相変化や密度変化を SPring-8の強力X線と大型高圧装置を用いて明らかにしました。またバイロイト大学の研究グループとの共同で、得られた試料の様々な分析をおこない、高圧相間の 鉄などの元素の分配や酸化状態を決定しました。
 これらの結果、パイロライトを構成する高圧相鉱物の下部マントル深部領域における相変化や化学組成の詳細が明らかになるとともに、その密度変化も 高い精度で決定されました。また、パイロライト中での鉄のスピン転移の影響についても、従来の結果と異なる新しい知見が得られました。今回の実験結果を 観測に基づく密度データと対比することにより、下部マントル上部〜中部の密度はパイロライトで説明できることがわかりました(図)。
  パイロライトは深さ30-410kmの上部マントルや、410-660kmのマントル遷移層の構成物質と考えられており、本研究により下部マントルもこの仮想的岩石が主要な 物質である可能性が強まりました。マントル全体がパイロライト的物質でできているとすると、地球の材料は始源的隕石CIコンドライトに比べ、最初から珪素(Si)に 乏しかったことを意味します。今後、パイロライトの弾性波速度の精密測定をおこない、観測された地震波速度と対比することにより、この点に関してより決定的な 解明がなされると期待されます。
 本共同研究はGRCの入舩教授のフンボルト賞受賞(2007年)をきっかけに開始され、本論文の内容はドイツにおいても同時記者発表されました。 なお本論文は、Science誌の編集者により選ばれたインパクトの高い4つの論文の1つとして、online版の「Science Express」に掲載されています( http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/science.1181443v1)。また、研究の概要はSPring-8ホームページ( http://www.SPring-8.or.jp/ja/)の「研究成果(12/4付)」に掲載されています。





     
Science誌「Science Express」に成果発表
← 2009年度一覧へ戻る