地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の土屋卓久教授と,日本学術振興会研究員の河合研志博士(現在パリ地球物理学研究所)は,第一原理電子状態計算法や地震波形インバージョンなどの手法を駆使し,地球のマントルと核の境界付近のD”(デイーダブルプライム)層付近の温度構造を制約しました。この結果この領域の温度として,3800±200K程度が最適であることが明らかになりました。また,地球の中心核から放出される熱流量の見積もりをおこない,固体地球の進化過程に関する重要な結論を得ました。本研究成果は,アメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)の2009年12月7日の週の電子版において発表されました。   

         

  地球内部2890kmの深さに,岩石からなるマントルと鉄合金液体からなる外核の境界「核?マントル境界(CMB)」が存在しています。マントル対流はこのCMBを通じて伝わる熱エネルギーを主要な駆動力としているため,CMBは地球内部最大の物質境界であると同時に,地球内部の運動や進化を支配する重要な領域(熱境界層)であると考えられています。しかし100万気圧を超えるマントル深部の温度を決定する方法はこれまで確立しておらず,CMBの温度も長らくおおよそ3000Kから5000Kの範囲で漠然と推定されているに過ぎない状況でした。   
  愛媛大学の研究グループでは,これまで「第一原理電子状態計算法」に基づく理論鉱物物性研究から,マントル最深部の主要鉱物である珪酸塩ペロヴスカイト・ポストペロヴスカイトの安定性と弾性波速度を明らかにしてきました。本研究ではさらに地震波形から地震波速度構造を求める手法である「波形インバージョン法」の研究者との共同研究により,マントル最深部「D”層」の地震波速度構造を再現し実際の観測結果と比較することにより,CMBの温度の最適化をおこないました。(この際、ポストペロヴスカイト相転移(D”地震波不連続面)の位置,温度上昇に伴う速度低下量,一度ポストペロヴスカイトへ相転移した物質がペロヴスカイトへ戻る(逆相転移)「ダブルクロッシング」の有無,の3点に特に注目しました。)   
  この結果,CMBの温度は従来の見積もりの中間付近の3800±200K程度であり,またダブルクロッシングはほとんど生じていないことが判明しました。CMBがこの程度の温度であると,CMBを通る熱エネルギー量(熱流量)は地球表面からの全熱流量の約1/6(8TW(テラワット))程度と見積もられ,核の冷却は以前の見積もりに比べ緩やかなものとなります。このことは,地球磁場が数10億年の長期にわたり維持され得ることや,固体内核が誕生し現在の大きさまで成長するのに約27億年程度かかったことなどを示唆します。現在から27億年前は,地球磁場が活発化し有害な宇宙線が遮蔽され,それにより酸素を放出するシアノバクテリアが地上で急増したとされる時期と一致します。
  またマントル最深部で顕著に観測される「地震波速度不均質」も,数100Kの温度変動に伴うポストペロヴスカイト相転移圧力の変化により説明できることがわかりました。そのような温度変動はマントルの対流運動によって容易に生じると考えられています。今後,マントル深部物質の熱伝導率を精密に決定し,今回得られた温度分布を用いて熱流量をより正確に計算することにより,地球の熱的進化(熱史)に関してより決定的な解明がなされると期待されます。


          
米国科学アカデミー紀要に成果発表
← 2009年度一覧へ戻る