4月から本センターで研究をさせていただくことになりました河野です。私の研究分野は高温高圧条件下における岩石・鉱物の弾性波速度測定で、 これまではピストンシリンダー型高圧発生装置を用いた弾性波速度測定システムの開発と天然に露出する火成岩、変成岩の弾性波速度測定を主に行なってきました。
 岩石・鉱物の弾性波速度測定は、地球内部の地震波速度構造と組み合わせ、直接観察できない地球内部の構成・構造・状態を理解するための重要な研究です。 私は学部の卒業研究より、日本列島のような島弧-沈み込み帯内部の構造・状態を理解することを目的とし、過去の島弧地殻?最上部マントルが現在連続的に 地表に露出しているパキスタン北部コヒスタン地域の地質と採取した岩石を使用した記載・分析、そして弾性波速度測定を行ってきました。
 修士研究では、島弧地殻深部に相当する高温条件下での弾性波速度測定方法の開発を行い、最大1000℃、1GPaと地殻のほぼ全体をカバーする温度圧力条件での弾性波速度測定方法を確立しました。博士研究では、沈み込み帯の下部地殻〜最上部マントルで観測されている地震波速度の低速度異常に注目し、(1)高温で含水鉱物の脱水により放出した水は弾性波速度にどのような影響を与えるのか?、(2)水やメルトがない場合は本当に急激な弾性波速度低下は起こらないのか?の2つの観点から研究を行ってきました。かんらん岩中の蛇紋石、緑泥石の脱水がP波速度に与える影響を測定した結果、含水量が少ない場合は水の濡れ具合が含水量増加に対してほとんど変化せず、P波速度低下率も小さいのに対し、含水量が多くなると含水量増加に伴い水の濡れ具合が非常に大きくなり、強いP波速度低下を起こす事が分かりました。また水のない状態においては、かんらん岩では直線的な弾性波速度温度依存性が確認され、急激な速度低下は起こらないことが分かりました。しかし、一方では下部地殻を構成すると考えられるはんれい岩などでは水がない場合でも400-500℃を境に高温で急激な弾性波速度低下が起こることが明らかとなりました。同様の現象が同じ組成の斜長石のみからなる斜長岩でも確認され、TEMやXRDの結果と合わせると斜長石の構造の変化と関連し弾性波速度温度依存性の変化が起こることが分かりました。このはんれい岩で得られた急激な弾性波速度低下は、日本列島などの高温の地殻深部における低速度異常の原因となる可能性があり、これまで議論されてきた水やメルトがない場合においても低速度異常ができることが予想されます。  
 



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     河野 義生
  (研究機関研究員)