今年度から日本学術振興会の特別研究員として、本センターで研究をさせていただくことになりました西山宣正です。私は学部・修士課程と、この愛媛大学で学ばせていただきました。今年度からは、研究員として再びこの愛媛大学で研究生活を送ることになり、とてもうれしく思っております。
 私は、研究を始めた当初から、シンクロトロン放射光と高温高圧発生装置を組み合わせたX線その場観察という手法を用いて、地球深部を構成する鉱物の高温高圧下における相転移境界や、圧力−温度−密度の関係(状態方程式)を決定する研究を行っています。この実験には非常に強力なX線が必要なので、大型放射光施設を使用できるようになった1980年頃から、この実験は行われるようになりました。この方法では、この強力なX線をつかって高温高圧下におかれた試料をその場で観察することができます。
 これまでに行った研究として、マントルの最主要鉱物であるオリビンのマグネシウム端成分であるフォルステライト(Mg2SiO4)において、リングウッダイトがペロブスカイト(MgSiO3)とペリクレース(MgO)へ分解する相境界をX線その場観察実験により精密に決定しました。実験の結果、これまで考えられていたよりもかなり低い圧力でこの相転移が起こるということが明らかになりました。これまで、この相境界は地球内部の深さ660kmに存在するマントル遷移層と下部マントルの境界の原因となっていると考えられてきましたが、この研究の結果はこの説に再検討をせまるものです。この研究の結果を受けて、現在でもマントル遷移層・下部マントル境界の原因を明らかにするための研究が世界中で盛んに行われています。
 最近は、マントルプルームの上昇メカニズムを明らかにするためのX線その場観察実験を行いたいと思っています。マントルプルームとは地球深部物質の上昇流のことです。この上昇流は地球の歴史において、大陸を分裂させたり、生物の大量絶滅を引き起こしたりするなど、非常に大きな役割を果たしていることが地質学・古生物学などの結果から示唆されています。また、現在の地球におけるこのマントルプルームの地球深部での分布や形状の特徴は地震波トモグラフィーの結果から明らかになりつつあります。しかしながら、マントルプルームの上昇メカニズム(例えば、マントルプルームは温度に起因する浮力で上昇するのか?それとも化学組成差にもとづく浮力で上昇するのか?)はほとんど明らかにされていません。これを明らかにするためにはマントルプルームとその周囲のマントルを構成している物質に関する研究が不可欠です。今後はマントルプルームの物質科学研究を可能にする実験技術を開発し、マントルプルームの上昇メカニズムを少しでも明らかにできるように研究を行いたいと思っています。 今後ともよろしくお願い致します。  


    西山 宣正
 (学振PD特別研究員)