第164回ジオダイナミクスセミナー
   Geodynamics Seminar

     「高圧下における含水Mg珪酸塩メルトの構造」
 "The structure of hydrous Mg-silicate melts at high pressure"

        講師:山田明寛(愛媛大学博士3年)  

                  

      主催 : 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
      日時 : 2006年10月27日(金)17:00〜
      場所 : 愛媛大学理学部講義棟 101室
 
要 旨
 水は、その存在量の多少に関わらず地球内部物質の物性や融解特性に著しい影響 を与える。例えば、含水条件下におけるマントル鉱物の高圧熔融関係は無水条件 とは大きく異なり、また、生成される初生メルトの組成は全く別の組成になるこ とも明らかにされている。このような含水珪酸塩メルトの特性は、圧力下でのメ ルトの構造が大きく関わっていると考えられ、その構造変化を調べることは地球 内部における含水マグマの状態を推測する上でも非常に重要である。
 これまで、含水珪酸塩メルトの構造に関する研究は、高温高圧条件で生成した 含水珪酸塩メルトの急冷回収物質である、含水珪酸塩ガラスの分析のみによって 行われてきた。その大きな原因のひとつとして、含水珪酸塩メルトの高圧下にお ける直接観察に関する実験技術的問題があった。本研究では、単結晶ダイヤモン ドと貴金属の複合カプセルを用いることにより高温高圧下でX線の十分な透過を 確保しつつ、含水珪酸塩メルトを長時間安定的に封入することに成功した。これ により高圧条件下での含水マグマに関する構造の直接観察がはじめて可能になった。
 得られたX線回折パターンを解析した結果、含水マグマは低圧(約3 GPaまで)の 領域では非常に短いネットワーク構造を持つことが分かった。これは低圧で合成 された含水珪酸塩ガラスの分析結果とも調和的であり、水が珪酸塩のネットワー クを分断し溶け込んでいることによる。一方、より高圧下でのネットワーク構造 のサイズは無水のものとほとんど変わらないか、あるいはそれより長いという結 果を得た。これはある圧力領域から水のマグマへの溶解様式が変化していること を示唆する結果と予想され、非常に興味深い。この他、発表では、上記の単結晶 ダイヤモンドを用いた含水珪酸塩メルトの高圧X線回折測定用の高圧セル構成に ついて紹介すると共に、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設Photon FactoryにおけるAR-NE5Cビームライン、大型放射光施設SPring-8のBL04B1ビーム ラインで行った実験についても紹介する。また更に、得られた15 GPaまでの含水 Mg珪酸塩メルトの圧力による中距離、短距離構造変化およびそれらの組成依存性 についても紹介する。


        問い合わせ先:土屋 卓久  TEL   (089)927-8198
                       E-mail  takut@sci.ehime-u.ac.jp