第186回ジオダイナミクスセミナー
   Geodynamics Seminar


「高温高圧下におけるMgOの弾性波速度測定による絶対圧力の決定:MgO, Au, NaClスケールとの比較」
"Simultaneous ultrasonic elastic wave velocity and XRD measurements of MgO at high pressures and high temperatures: Implications for standard-free pressure calibration"

講師:河野義生(GRC研究機関研究員)

   主催 : 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
   日時 : 2007年8月3日(金)17:00〜
   場所 : 愛媛大学理学部講義棟 101室

              

要 旨
  MgOは地球科学的,高圧実験技術両方の面で重要な役割を担っている.地球科学的観点からみると,MgOは下部マントル構成物質の端成分を担っており,その弾性波速度を明らかにすることは,下部マントルの地震波速度構造を解釈する上で必要不可欠である.一方,高圧実験では,MgOは圧力媒体や圧力標準物質として用いられ,過去に報告されている各種圧力スケールを用いた圧力決定が行われている.しかし,MgO, Auなどを用いた各種圧力スケールにより決定される圧力の違いは,これまでに多数報告されており,昨年のAGU fall meetingでも多くの研究結果が報告されていたが,実験的にまだ決定的なデータが出されていないのが現状である.圧力スタンダード不要の圧力決定方法は,特に最近StonyBrookのBaosheng LiやGFZのHans Mullerらが積極的に行っているが,いずれも室温のみかつ約10GPaまでにとどまっている.我々は,最近SPring-8のBL04B1ビームラインにおいて,私を実験責任者とする課題「高圧下におけるMgOの超音波弾性波速度測定による絶対圧力の決定:MgO, NaCl, Au圧力スケールとの比較」を行った.BL04B1ビームライン設置の高解像度カメラ(解像度:~2.05μm/pixel)と超音波波形(データポイント:200ps/sample)からは誤差~0.3%での弾性波速度決定が可能である.弾性波速度の0.3%誤差が単純にK0に影響すると考えると,圧力決定は~2%の精度を持つ(15GPaにおいて約0.3GPaの誤差).我々は2007A期において,最大~18GPa,1650KにおけるMgOの弾性波速度,MgO, Au, NaClの格子定数データを得た.本研究では,まず室温のデータのみについて,有限歪の方程式から断熱積弾性率(K0s, Ks’)を決定し,既知の熱膨張率,グリューナイゼンパラメーターを用いて,等温体積弾性率(K0T, KT’)を計算,そしてバーチ・マーナガンの状態方程式から圧力を決定した.その結果,Li et al. (2006)において本研究と同じMgOの超音波法から決定された圧力と本研究の測定結果は誤差の範囲内で良い一致を示した.一方,既存のJamieson et al. (1982)のMgOスケール,Anderson et al. (1989)のAuスケール,Decker (1971)のNaClスケールとの比較を行った結果,~14GPa以上において~0.5-1.2GPaもの大きな圧力差が見られ,これらの圧力スケールが室温下では圧力を低く見積もっている可能性が示唆された.本発表では,高温条件下への適用についても発表すると共に,さらにその他圧力スケールとの比較も行う.


        問い合わせ先:土屋 卓久  TEL   (089)927-8198
                       E-mail  takut@sci.ehime-u.ac.jp