第192回ジオダイナミクスセミナー
   Geodynamics Seminar


「高温高圧下におけるMgSiO3ガラスの構造変化その場観察と弾性波速度変化」
"Structural and elastic wave velocity change of MgSiO3 glass at high pressure"

山田明寛(GRC研究機関研究員)
   主催 : 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
   日時 : 2007年11月16日(金)17:00〜
   場所 : 愛媛大学理学部講義棟 101室

              

要 旨
  高圧下での珪酸塩メルトの構造、物性変化は地球内部科学における大きな興味の 一つである。ところがこれまでのところ、高温高圧条件下での珪酸塩メルトの構 造、弾性波速度に関するその場観察実験はその実験技術的困難さからほとんど行 われていない。そこで本研究では、高圧下における珪酸塩メルトの構造や物性変 化を知る手がかりとして、MgSiO3ガラスの構造を放射光X線その場観察により高 圧下で直接調べた。
 MgSiO3ガラスは、エンスタタイトを大気雰囲気中において1700℃で融解させ、 水中に落下させることにより作成した。
 高温高圧X線その場観察実験は高エネ研のPF-ARにおけるAR-NE5Cビームライン 設置のMAX-80ダイヤ型プレスと、SPring-8のBL04B1ビームライン設置のSPEED- 1500川井型プレスを用いて行った。高圧ガラスのX線回折測定はそれぞれのシン クロトロン放射光X線を用いてエネルギー分散法によって行った。
 MgSiO3ガラスの高圧X線回折測定を最大20 GPa, 600℃までの温度圧力条件で 行った。Si-O結合距離及び配位数変化から、ガラス中のSiO4四面体の高配位への 構造変化は、およそ15 GPa付近から生じることがわかった。また、Mg- perovskite(SiY)の圧縮による構造解析結果との比較から、ガラス内のSiO4四面 体が完全な6配位構造に至る圧力はおよそ30 GPaと見積もられた。一方低圧領域 では、6.5 GPaまでSi-O結合距離はわずかに増加するが、その後11 GPaまで急激 に減少する。この原因として、6.5 GPa付近を境とした圧縮機構の変化が考えら れる。6.5 GPa付近より低圧の領域では-Si-O-Si-のネットワーク構造が折り曲げ られることによって圧縮され、結合距離が伸びる(Gibbs, 1982)。一方6.5 GPa以 上の高圧下では、低圧領域とは異なるメカニズムによって高密度化が生じている ことが予想される。この現象を検証するために、高温高圧下より回収されたガラ スのラマン分光測定を行った結果、高密度化を起こしているガラスには、より短 い珪酸塩の周期構造単位由来のピーク(例えば、SiO4モノマー)が卓越して見られ た。また、珪酸塩ガラスのネットワーク構造を反映したX線干渉関数中の第一 ピークの圧力シフトにおいて、およそ9 GPa付近で不連続が観察され、この圧力 領域において珪酸塩ガラスのネットワーク構造の再配列が生じている可能性を示 唆している。更に、珪酸塩ガラスの弾性波速度測定に関しては、Zha et al. (1994)によって、高圧下での弾性波速度変化とSiの高配位数化との関連が議論さ れており、現在MgSiO3ガラスの高圧下での弾性波速度測定も進めつつある。発表 では、上記の構造変化と弾性波速度変化の関係についても言及する予定である。


        問い合わせ先:土屋 卓久  TEL   (089)927-8198
                       E-mail  takut@sci.ehime-u.ac.jp