センター長書き下ろし
新版・地底旅行
(VOYAGE AU CENTRE DE LA TERRE) (4)


7.地表への旅
 地球の中深さ約5200kmでダイヤモンド号が遭遇する内核は、密度の極めて高い鉄の結晶からできています。地球の半径は約6400kmですから、あと1000kmあまりで地球の中心に達するのですが、内核における活発な運動(ダイナミクス)はあまり期待できず、自らの動力をもたないダイヤモンド号はこれ以上深く進むことができません。残念ながらここで地底への旅は諦めて、地表に戻るのが賢明でしょう。それでもヴェルヌの地底旅行が深さ100kmあまりで終わってしまったのに比べて、ずっと地球の奥深くまで来たことになります。
 先に述べたように液体の外核は活発な対流運動をしているので、 上昇流を見つければあっという間にまたマントルまで戻ることができます。 外核の上昇流に乗った快適な旅は、深さ2900kmまで達するとマントル岩石の
図1
天井にぶつかることにより一旦停止を余儀なくされます。しかし心配には及びません。 近年の地球科学の発展は、核-マントル境界から地表に至る"スーパープリューム"と  称されるマントル中の巨大な熱い上昇流の存在を明らかにしました。特にGRCの趙らによる 地震波トモグラフィーにより、南アフリカや南太平洋、またハワイやアイスランドの下に おける巨大な熱いプリュームの存在とその形状が明瞭に示されました(図1)。
一方で、マントル深部の物質が地表にもたらされているという確かな証拠が、
図2
エジンバラ大学のHarte教授らにより天然のダイヤモンド中から発見されました(図2)。 彼らはブラジル産のダイヤモンドの中に、筆者らが超高圧合成実験により報告して いた特殊な鉱物を発見し、これがマントル遷移層 や下部マントルに由来することを明らかにしたのです。同教授は半年ほど筆者の研究室に滞在するなど、現在も共同研究をすすめつつあります。マントル深部から地表に達する大規模上昇流の存在とそのメカニズムはオーストラリア等の研究者により以前から研究されていましたが、このようなGRCスタッフらによる研究はその存在を一層確かなものにしました。
 プリュームに乗ったダイヤモンド号は、深さ660kmの不連続面での小停止を経て、地表付近までゆっくりと上昇します。マントル中の大規模プリュームはいくつか知られておりどのプリュームに便乗するかは迷うところですが、後々のことを考えるとハワイの下のプリュームがおすすめでしょう(次回に続く)。  
(本稿は2001年8月4日愛媛県生涯学習センターでおこなわれた企画「不思議がいっぱい科学の世界」中の、入舩徹男センター長の「地球の中をのぞく」と題する講演内容に基づいています)


 

 
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