センター長書き下ろし
新版・地底旅行
(VOYAGE AU CENTRE DE LA TERRE) (5)


8.閑話休題  
 話しは少し変わりますが、世界120か国に会員4万人を擁する最大の地球科学関連の学会であるアメリカ地球物理学連合の総会が、昨年12月にサンフランシスコで開催され筆者も参加しました。研究発表や共同研究の打ち合わせなどが主要な目的でしたが、その他に特に楽しみにしている講演がひとつありました。それはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の、マントル対流の理論的研究で著名なGerald Schubert教授の"A Geophysicist's Journey to the Center of the Earth(地球物理学者の地底旅行)"と題する特別講演でした。これは地球内部物理学の父とも称される、Francis Birch故ハーバード大学教授の古典的名論文発表後50年記念としておこなわれたシンポジウムのレクチャーでしたが、そのタイトルが本稿とほとんど同じだったのです。
 Schubert教授は主に地球の核に焦点をあてて最近のトピックスについて話しました。興味深かったのは、本稿の序で述べたジュール・ベルヌの「地底旅行」を同教授は講演の最後に引用し、地球の温度についてのベルヌの考えについて本稿と全く同じように紹介し賞賛していたことです。もっとも「ダイヤモンド号」の着想は同教授の講演にはなかったので、ストーリーとしてはちょっと"勝ったな"と思いました。しかし最新の核の研究成果については筆者の知らなかったことも多く、一勝一敗といったところでしょうか(向こうはそうは思わないかも知れませんが…)。
 ついでに筆者の知らなかった核についての最近の話題でもっともショックだったのは、 ハーバード大学の日本人女子大学院生Ishii氏により発表されたばかりの、固体の内核が 2層からなっているという研究結果でした。本稿では内核中の旅は諦めて、マントルに 引き返してきたのですが、もう少し頑張って内核まで行けば面白い現象がみられたことでしょう。  

9.地上へ  
 さて、ダイヤモンド号はマントルプリュームに乗って地表へと向かいます。 前回のお話で"660km不連続面で小停止"と述べましたが、最近の GRCの学振研究員西山氏らの研究によると、どうもそうでもないようです。 高温のマントルプリュームの運動は、従来の低温の実験に結果に基づく予想に反しこの不連続面を簡単に通過する可能性が出てきたのです。
 ハワイの下のプリュームに乗って上昇するダイヤモンド号は、地表付近 に至ると急激に速度を早めます。地表に近くなると固体のプリュームが圧 力低下のために融けだし、地表付近では音速に近い早さで火山の噴火とし て地上に飛び出します。ダイヤモンドは地表近くの圧力に至ると墨に変化 してしまうのですが、十分高速で地表まであがってくると墨に変わる暇がなく、 ダイヤモンドとして存在できます。ダイヤモンド号は、こうして無事地上に着くことができるのです。
 ダイヤモンド号が飛び出した火山は、ハワイ諸 島の東端に位置するハワイ島のキラウエア火山です。ハワイ諸島は皆火山島ですが、現在活動しているのはこの火山だけで、マウイ島、モロカイ島、そしてホノルルのあるオアフ島と、西に行く程古い火山になります。ところでハワイ島にはオリビンサンドと呼ばれる"緑の砂浜"があります。これは火山と一緒に地表に飛び出したマントルの緑色の鉱物かんらん石(オリビン)が風化し、細粒化して砂になったものです。緑の砂浜に寝転んで、リゾート気分で南国美女のフラダンス鑑賞…是非一度経験してみたいものです(次回に続く)。  

(本稿は2001年8月4日愛媛県生涯学習センターでおこなわれた企画「不思議がいっぱい科学の世界」中の、入舩徹男センター長の「地球の中をのぞく」と題する講演内容に基づいています)



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