石松直樹教授が着任されました
2024年度5月1日より石松直樹教授が着任されました。
石松教授より ~着任挨拶~
2024年5月1日付けで教授として着任いたしました石松直樹と申します。私は1990年4月に出身の静岡県浜松市を離れ、富山大学理学部物理学科に入学し、同大学院修士課程の修了まで富山市に6年間滞在しました。富山ではX線トポグラフィーによるGaAs単結晶の格子欠陥観察を行いました。その後、東京工業大学 大学院総合理工学研究科 材料科学専攻の博士後期課程に進学し、Gd/Fe多層膜の厚み方向の磁気構造をX線共鳴磁気散乱により決定する研究テーマに従事して博士号を1999年3月に取得しました。1999年4月より日本原子力研究所関西研究所の博士研究員として2年半在籍し、ダイヤモンドアンビルセルを使った高圧発生技術に初めて触れました。2001年10月から広島大学の大学院理学研究科の物理科学専攻電子物性研究室に助手、助教、特定准教授として22年と8か月在籍し、この度GRCへ参りました。
私は放射光を使ったX線吸収分光法(XAS)とX線磁気円二色性(XMCD)などのXASの関連手法の高圧下測定から、金属、合金、金属間化合物の構造物性研究を進めています。XASは内殻電子が外殻の非占有電子状態に励起される過程を経るため、例えば吸収元素の電子殻を特定した電子状態、価数や局所構造が検出できる優れた手法です。近年はこの手法を用いて、①不規則合金の元素を区別した合金構造の可視化、②遷移金属-希土類化合物の水素誘起の新奇磁気構造の発現と磁石材料への応用、③2段式アンビルによる超高圧下のXAS測定、④NPDアンビルを用いた高圧下X線ホログラフィー法の開発等を行っています。
高圧科学の魅力の一つは常圧下では得られない新奇物性の発現です。一方で私は、圧力を横軸とすることで物性の変化が系統的に観測できることにも高圧の意義を感じます。例えば①の研究では、FeとNiが結晶格子点をランダムに配置した強磁性の不規則Fe-Ni合金において、最近接Fe-Fe原子間距離が他のFe-Ni、Ni-Ni原子間距離よりも長いことをXASと逆モンテカルロ法の解析により見出しています。この不規則合金を加圧すると磁化の減衰に伴ってFe-Fe間距離の伸長が減少し、常磁性相に入ると他の原子間距離と同程度となる系統的な圧力依存性が得られました。この結果は磁気体積効果と呼ばれる強磁性発現に伴うマクロな体積膨張を、原子スケールにおけるFe-Fe間距離の伸長と関係づけた高圧下測定ならでは成果といえます。一方、不規則合金を特徴づける構造の理解はまだ道半ばです。その達成には、Fe-Fe間の伸長だけでなくこれらの原子対の結合角度や原子変位の方向で記述できるnmスケールの中距離構造の可視化が重要です。不規則合金の合金構造の解析技術が開発できれば同じFe-Ni合金で形成される地球内核の構造決定にも役立つと考え、GRCの最先端の機器を活用しつつ研究を発展させたいと考えています。
これまでも何度か述べてきましたが、高圧下XASがここまで発展した理由の一つにGRCが開発した材料であるヒメダイヤ(NPD)が挙げられます。多結晶体ダイヤモンドであるNPDはXAS測定時のX線エネルギースキャンで常時Bragg回折が生じるので、単結晶ダイヤモンドのアンビルで課題であったグリッチと呼ばれるノイズが発生しません。この結果として、試料の状態が良ければ高圧下でもNPDならば常圧下と遜色ないXASスペクトルが得られます。NPDを作製するGRCに私が所属することで、より高い圧力下での新奇物性の観測や、XAS測定以外へのNPDの適用がこれまで以上に容易となりました。私は高圧下XAS測定をさらに発展できる期待とともに責任も感じています。GRCは地球科学分野の世界的な研究拠点でありますが、ここの高圧装置群は物質科学や材料工学にも応用できる充実した研究環境です。この研究環境を活用して私がこれまで進めてきた高圧下でのX線吸収分光研究を発展させつつ、GRCの教育研究活動にも貢献できればと考えております。皆様には引き続きお世話になりますがご指導ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。