センターに新しく導入された機器・装置等のご紹介

電界放出型透過電子顕微鏡システムの機能強化 / 2024.11

2100F

2015年度に導入されGRCにおける微細組織観察・分析の主力として活躍しております電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM; JEOL JEM2100F)のカメラシステムと走査透過電子顕微鏡(STEM)システムの更新が行われました。
GRCのJEM-2100Fにはサイドマウントとボトムマウントの2台のCCDカメラ(解像度2048 x 2048ピクセル)が設置されておりましたが、そのうちの高分解能像の取得する際に利用するボトムマウントカメラが高速高感度CMOSカメラに更新されました。CMOSイメージセンサーが搭載されたTEM用カメラは、現在、市販されているカメラの主流ですが、イメージセンサーで検出した光子や電子を高速で電荷として計測することができ、4096 x 4096 ピクセルの高解像度撮影条件であっても毎秒25フレームの高速で撮影することが可能です。これは、これまでのCCDカメラの100倍以上の速度になります。このような高速度で、高解像度の像取得が可能な本カメラは、その場加熱ホルダーと組み合わせたその場TEM観察、電子線の照射による損傷を受けやすい試料の構造劣化前の状態の記録などに力を発揮することが期待されます。また、今回の更新では、試料を構成する元素の結合状態を分析することができる電子線エネルギー損失分光法検出器とGatan社製 STEMシステム(DigiScan 3システム・STEMxシステム)が新たに導入されました。これらの新システムの導入により、試料上での電子線プローブの二次元走査に同期したカメラでの回折図形記録または電子線エネルギー損失分光スペクトル記録を行う4D-STEM法による試料の解析が可能となり、擬似的な暗視野像・明視野像、位相マップや結合状態マップを作成することができます。今回の更新により、より高解像度での観察・分析、TEM内での動的観察が可能となり、高圧地球科学・物質科学研究へのさらなる貢献が期待されます。(井上紗綾子)

並列クラスタ型計算機システム(GRC-PCS) / 2024.3

総合研究棟1階情報処理室には、Almandine、Pyrope2、Knorringiteの3つの電子状態シミュレーション用並列クラスタ計算機システム(GRC-Parallel Computing System)が設置されています。この内、2010年前後の期間に導入されたAlmandineシステムは使用年数が最も長く、最近では高経年運用により一部の計算ノードで不調が生じていました。そこで老朽化したAlmandineを更新し、新システムAlmandine2を導入することとなりました。
Almandine2は、1台の管理サーバと20台の計算ノードから構成されるクラスタ型並列計算機です。演算性能と電力効率のバランスを重視して仕様策定を行った結果、CPUにIntel社のXeon Silverを採用しました。スペックの詳細は以下の通りです。管理サーバは10コアを有するXeon Silverを1個搭載するとともに、合計77TBの巨大ユーザーディスク領域を有しており、ジョブ管理システムTorque、Intelコンパイラ、数値計算ライブラリ、MPIライブラリを実装しています。一方、計20台の計算ノードは1ノード当たり16コアを有するXeon Silverを2個と計192GBの大容量メモリを搭載し、単ノードで32並列の大規模計算が可能なスペックとなっています。ノード当たりで見ると、換装前のAlmandineと比較してAlmandine2は約2倍の性能が実現されており、従来は困難であった規模の計算も効率的に実行することが可能です。特別なインターコネクトは採用しておらず、ノード間通信効率ではスーパーコンピュータには全く敵いませんが、32並列の単ノードジョブを最大20ジョブ同時実行する場合、演算総量は大型の計算機にも匹敵するものとなります。並列化効率を高めることが容易くない第一原理計算にとっては申し分ない性能といえるでしょう。
情報処理室に設置されている並列計算機システムは、セキュリティー上ファイヤーウォールにより外部ネットワークとは隔絶されています。従って、Almandine2には学内外を問わず外部から直接アクセスすることはできません。これでは利便性が悪いので、鍵認証により外部からアクセス可能なゲートウェイサーバGrossularを設置しています。このGrossularにまずアクセスし、これを経由することでGRC-PCSに外部からアクセスすることが可能となります。これにより、学内外を問わず世界中どこからでもAlmandine2システムが利用できます。最近は国際空港ともなるとだいたいWiFiのアクセスポイントがありますので、海外出張の場合でも空港での待ち時間などを利用してノートパソコンから本計算システムを用いてシミュレーションを実行したり、結果を解析したりすることも可能です。
本システムはセンターの共同利用・共同研究活動に供している機器となっていますので、申請いただければ外部の方であっても利用いただけます。利用を希望される場合はご一報ください。ただ、現在は学生さんや共同利用ユーザーなど複数の利用者が常時GRC-PCS使って計算を実行しています。計算機のパフォーマンスは年々着実に向上していますが、その分より大規模な計算を実行したいとなるので、いつまでたっても計算機性能が満ち足りるということはありません。限られた計算機資源を効率的に運用し、できるだけ質の高い研究成果を数多く出させるように心がけていきたいと考えています。(土屋卓久)

電解放出型電子線プローブマイクロアナライザ / 2023.6

2023年の3月に電解放出型電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)(JEOL JXA-iHP200F)が新たに導入されました。GRCではこれまで、実験回収試料の元素分析は走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL JSM-6510LVもしくはJSM-IT500HR)に付属したエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて行われてきました。今回導入されたEPMAは5つの波長分散型X線分光器(WDS)を備えており、炭素や窒素といった軽元素分析に適した分光結晶(LDE2、LDE1H)とマグネシウム、シリコン、鉄といった鉱物構成元素分析に適した分光結晶(TAP、PETJ、LIF)を備えており、各元素について数十~数百ppm程度までの定量分析を行うことが可能です。
WDSはEDSに比べてエネルギー分解能が一桁程度高いため、EDSでは不利な多元素分析に威力を発揮します。またスペクトルのS/N比も高く、EDSに比べて2桁程度高い検出限界を持ちます。これまでは多元素(たとえば10元素程度)から成る試料や数千ppm以下の微量元素をEDSで測定する際は対象元素のピークが常に隣接した主要元素ピークに埋もれてしまうため、非常に困難であったのですが、新たに導入したEPMAによってこうした問題点が解決されます。加えて、EPMAの面分析では各元素の質量濃度マッピングを取ることも可能であり、鉱物試料の2次元の元素拡散の様子などについてより詳しく知ることができます。
このように、これまでのSEM-EDSに比べて多くの利点を持つEPMAですが、EDSのように全元素一斉分析ができない点や検出器が試料表面から離れていることでどうしても照射電流量を大きくする必要があるため、未知試料の分析や構造が壊れやすい物質を分析する際には注意を払う必要があります。また、WDSはブラッグの回折条件を利用した分光器であり、元素毎によって回折される特性X線の角度が異なるため、分光結晶や検出器を各元素によって移動させる必要があります。そのため、EDSに比べると非常に時間がかかるという難点もあります。EDSとWDSそれぞれの長所を生かしつつ、今後はEDSでは難しかった天然試料等の多元素分析や微量元素分析にEPMAが威力を発揮することが期待されます。(桑原秀治)

集束イオンビーム走査電子顕微鏡(Thermo Scientific Scios2 DualBeam)/ 2023.2

2023年2月に集束イオンビーム走査電子顕微鏡 (Thermo Scientific Scios2 DualBeam)が納入されました。本装置は、これまで長きにわたり先端研究の推進に貢献してきた集束イオンビーム装置(JEOL JEM9310FIB)が、老朽化による真空系の動作不良のため、安定した動作ができなくなっていたことから、その後継として導入されました。
Scios2は磁気材料を含む幅広い試料の高分解能観察に適した電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)カラムと高分解能微細加工に適した集束イオンビーム(FIB)カラムから構成されており。試料位置条件を変更することなくSEM像観察を行いながら、FIB加工・観察を行うことができます。また、エネルギー分散型X線(EDS)検出器を備えており、加工位置の化学組成分析を行なったり、試料断面の元素マッピングを行ったりすることが可能です。これまで使用してきたJEM9310FIBはFIB加工・観察機能のみを有していたことを考えますと、微細加工の精度と効率は飛躍的に向上したと言えるでしょう。また本装置は、すでに当センターの微細加工装置の主力として活躍しております集束イオンビーム走査電子顕微鏡Sciosの後継モデルであり、見た目も操作方法もよく似ています。そのため、すでにSciosの操作に熟達されたユーザーは、すぐにScios2も使いこなすことができるかと存じます。とはいえ、Scios「2」の名にふさわしく、操作性は向上したように感じます。また、今回導入されたScios2にはユーザーを補助する目的で、操作の一部を自動化する機能が追加されています。私たちが扱う試料は、試料ごとにその状態が大きく異なるため、そもそもFIB加工のルーティーン化が難しく、自動化の恩恵をどこまで受けることができるかは未知数ですが、手間と時間のかかるFIB加工を少しでも効率よく進めるための活用方法を見つけたいと思います。本装置の導入により、GRCが推進してきた高圧地球科学・物質科学研究のさらなる進展が期待され、共同利用・共同研究(PRIUS)課題についてもより効率的に推進することが可能になるでしょう。(井上紗綾子)

地球深部ダイナミクス研究センター

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