かんらん岩組成メルト中の鉄価数状態は、マグマの性質と挙動を理解する上で重要な情報です。メルト中の鉄価数状態は、温度、圧力、酸素フガシティ、組成に依存しますが、実験的制約によりかんらん岩組成メルトに関するこれらの知見は限定的です。
GRCの櫻原瑞穂さん(Gréaux研・修士2年)らの研究グループは、ガス浮遊炉を用いることで実験的制約を克服し、(Mg, Fe)SiO3組成メルト中の鉄含有量変化(Fe#= Fe/(Fe+Mg))が、メルト中の鉄価数状態とメルト構造に及ぼす影響を調査しました。その結果、Fe#=0.11-0.20の鉄価数比(Fe3+/ΣFe)は約0.35であるのに対し,Fe#>0.26では0.48へ急激に上昇しました。ガラス構造は、Fe# ≤0.26の場合にはMgSiO₃組成ガラスと類似しており、Mg²⁺が Fe²⁺に置換されることを示しています。そして、Fe²⁺への置換は自由体積を消費し、Fe#~0.26 付近で構造変化を起こす可能性があります。これらの結果は、鉄含有量が変化する(Mg,Fe)SiO3組成メルトにおいて鉄価数状態とメルト構造に相関関係があることを示しており、かんらん岩組成メルトにおける鉄価数状態を理解する上でメルト構造が重要であることを示唆しています。
この研究成果は、地球化学分野を代表する国際雑誌、Chemical Geology に掲載されました。
Mizuho Sakurahara, Yoshio Kono, Ryoichi Nakada and Steeve Gréaux, Correlated behavior between valence state of iron and melt structure in (Mg,Fe)SiO3 melt. Chemical Geology, 695, 123080, DOI:10.1016/j.chemgeo.2025.123080