研究成果

高圧含水鉱物の変形が引き起こすマントル深部のプレート内の地震波異方性

マントル遷移層と下部マントル最上部に滞留するプレートの付近には、地震波の異方性が観測されています。GRCのWentian Wu研究員、西原遊教授らの研究グループは、この原因を探るため、高圧含水鉱物δ-AlOOHとH相固溶体の変形実験を、20.5~24.5 GPa、800~1000℃の高温高圧条件下で行い、これらの鉱物が強い結晶選択配向を示すことを明らかにしました。この選択配向は、他の大部分のマントル鉱物と異なり、地震波の負の偏向異方性(鉛直方向に振動する横波が水平方向の振動のものより高速度)を引き起こします。この異方性は、いままで解釈が困難だった滞留プレート付近の地震波異方性の一部をよく説明できることがわかりました。

地球内部を伝わる地震波は、方位によって異なる速度で伝わることがあり、これは地震波異方性と呼ばれています。この地震波の異方性は、地球マントルの深部に沈み込み、マントル遷移層から下部マントル最上部(深さ約500~1000 km)に滞留しているプレートで、しばしば観測されています。しかし、この異方性の原因はよく分かっていませんでした。

Wu研究員らは、地球深部に沈み込んだプレートの比較的低温部分に存在すると考えられている含水鉱物に注目し、その変形挙動を調査しました。δ-AlOOHとこれにH相成分(MgSiO4H2)を含んだ固溶体(δ-H)という、2種類の高圧含水鉱物を、地球深部に相当する圧力20.5~24.5GPa、温度800~1000℃の条件下で実際に変形することによって、マントル遷移層に滞留するプレート内で変形するこれらの鉱物の挙動を明らかにしました。

実験の結果、変形によってこれらの高圧含水鉱物は、特定の結晶方位に向きがそろう結晶選択配向を顕著に示すことが分かりました。そして、この強い結晶選択配向は、マントル中での水平方向の剪断変形によって、特徴的な地震波異方性を生み出すことも分かりました。地震波のうち横波であるS波は、異方性を持つ物質中では、速度と振動方向が異なる2つの波に分裂しますが、δ-AlOOHとδ-Hでは、鉛直方向に振動するS波が水平方向に振動するものより高速となることが分かりました。この特徴は、負の偏向異方性と呼ばれ、他の大部分のマントル鉱物と異なります。このような特徴から、滞留プレート内の一部の地震波異方性がδ-AlOOHかδ-Hが変形することによって生じていると解釈できます。

この研究成果は、2026年5月12日付でGeophysical Research Lettersに掲載されました。

論文情報

タイトル:Deformation of δ‐AlOOH and its solid solution with phase H as a potential source of intra‐slab seismic anisotropy in the mid‐mantle
著者:Wentian Wu, Yu Nishihara, Noriyoshi Tsujino, Sho Kakizawa and Yuji Higo
掲載誌:Geophysical Research Letters53, e2026GL122235, 2026 (May 12).
DOI:10.1029/2026GL122235

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