火星マントルにおける地震波低速度領域の存在
GRCのSteeve Gréaux助教らのグループと、フランスの宇宙物理学研究所(IMPMC)との共同研究により、火星マントルの深さ150~350 kmにおいて、地震波の低速度領域が存在することが示唆されました。
NASAにより2018年5月に打ち上げられた火星探査機InSightは、同年11月に火星表面に到着して以来、様々なデータを地球に送り続けました。とりわけ、火星に設置された地震計により多数の地震(「火震」)が記録され、火星の内部構造を制約する詳細なデータが得られています。GRC-IMPMCの共同研究チームは、まず火星マントルに想定される物質に対して、火星内部に対応する高温高圧下での相関係を詳細に決定しました。更に放射光施設SPring-8の高圧地球科学関連ビームライン(BL04B1)において、X線その場観察と超音波測定技術を組み合わせることにより、火星内部で想定される物質の高圧相に対して、高温高圧下での弾性波速度を精密に決定しました。これらの結果、火星の上部マントル深さ150km-350kmに対応する圧力で、想定される火星のマントル物質の弾性波速度が、予想以上に低下することが明らかになりました。
本研究で得られた火星のマントルにおける低速度領域の存在に関する実験結果は、Insightミッションによる最新の観測結果とも調和的であり、今後火星マントルを構成する物質や内部構造・ダイナミクスを理解する上で重要な手がかりを与えると考えられます。本研究の成果は9月21日付で学術誌Geophysical Research Lettersに掲載されました。