「ヒメダイヤ乳鉢」を用いた研究成果を発表
GRCでは超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド(ヒメダイヤ)の開発に成功して以来、その様々な分野への応用をすすめています。その一環として、入舩GRCセンター長らはヒメダイヤを用いた世界で最も硬い乳鉢と乳棒を作製しました。このたびこれを用いた最初の研究成果が、アメリカ物理学会のRev. Sci. Instrum.誌に発表されました。本研究はヒメダイヤ乳鉢と乳棒で粉砕した半導体ダイヤモンドを用いることにより、超高圧下で従来にない高い温度を発生できることを示したものであり、ヒメダイヤ利用の新たな可能性を示すものです。
GRCの山田明寛JSPS特別研究員(当時、現滋賀県立大学助教)と入舩徹男GRCセンター長らは、ボロンをドープした半導体ダイヤモンド(ボロンドープダイヤモンド)を超高圧高温実験用ヒーターに初めて応用し、23万気圧程度の超高圧下で2300K程度の高温発生を2008年に発表しました1)。この手法ではボロン(実際にはB4C)とグラファイトを混合した材料を用いて、ヒメダイヤ合成と同様の手法を用い、高温高圧下でボロンドープダイヤモンドに直接変換させ、ヒーターとしての機能を持たせました。しかしこの手法で得られる半導体ダイヤモンドヒーターは、高温発生の安定性に欠けるなどの問題がありました。
今回の研究は、岡山大学惑星物質研究所の米田明准教授、謝龍剣大学院生(JSPS特別研究員)らにより、この手法を改良することにより従来の限界を大きく打破する4000K程度の高温発生を実現したものです。岡山大のグループは、合成ボロンドープダイヤモンドを粉末化し、これを充填することによりヒーターとしての機能を持たせることを考案しました。しかし、ボロンドープダイヤモンドは極めて硬いため、通常の乳鉢では粉末化することができません。そこで、ヒメダイヤ製の世界最硬乳鉢と乳棒を利用することによりこの問題を克服し、SPring-8における実験を行った結果、上記のような超高温の発生を確認しました。
地球のマントルは最高136万気圧・温度4000Kに至る高温高圧の世界ですが、従来の大型超高圧装置を用いた実験では、3000K程度までの温度が発生限界でした。本研究による新たな技術開発は、地球深部でのマグマの発生やそれにともなう進化過程の解明など、地球深部科学の発展に大きく寄与するものと期待されます。
本研究は、岡山大・愛媛大・SPring-8の共同研究成果として発表2)されました。なお、ヒメダイヤ製乳鉢と乳棒の設計・製作は、(株)シンテックの栗尾文子氏らとともに行われました。栗尾氏はヒメダイヤが初めてネイチャー誌に発表された2003年当時3)、愛媛大学理工学研究科修士課程学生としてその合成に携わりました。